ASML決算好調でも株価急落の理由とは?地政学リスクが成長を直撃

オランダの半導体装置メーカーASMLが好調な決算を発表した直後、株価が急落しました。
その理由は「2026年の成長は約束できない」というCEOの一言。AI需要で追い風が吹く中、なぜ成長を懸念するのか?
この記事では、ASMLの技術的立ち位置や地政学リスク、日本企業への影響までをわかりやすく解説します。
ASMLが2025年Q2決算で好調な業績を発表、それでも株価が急落した理由
2025年7月、オランダの半導体製造装置大手ASMLが第2四半期決算を発表しました。売上高は77億ユーロ(約8,900億円)、純利益は23億ユーロ(約2,600億円)と、いずれも市場予想を上回る結果となり、EUV(極端紫外線)露光装置の需要が引き続き堅調であることが示されました。
2025年第2四半期の決算ハイライト:売上・利益とも予想超え
今回の決算では、売上・利益のほかにもいくつかの注目すべき指標が発表されました。粗利益率は53.7%、1株当たり利益は5.90ユーロと、いずれもアナリスト予想を上回っています。
また、新規受注高(net bookings)は55億ユーロに達し、そのうちの約23億ユーロ分が最先端のEUV装置に関するものでした。
これらの数字は、AI向けチップや最先端プロセスへの需要が依然として強いことを裏付けています。特に、AppleやNVIDIA、TSMCといった顧客による次世代チップ開発が活発であることが背景にあります。
市場の失望を招いた2026年の不透明感とその発言
にもかかわらず、ASMLの株価は決算発表後の時間外取引で7%以上下落しました。その主な要因は、2026年の見通しに関するCEOの慎重な発言です。
CEOのクリストフ・フーケ氏は、「AI需要の基盤は堅調だが、地政学的・経済的な不確実性により2026年の成長を現時点では確約できない」と述べました。
このコメントが投資家心理に冷水を浴びせた形です。好調な業績と対照的に、未来に対する不安が株価を大きく押し下げました。
企業としては慎重な姿勢を示したに過ぎませんが、マーケットはその「成長に対する確信の欠如」をネガティブに評価したのです。
ASMLのビジネスモデルとグローバルな影響力:なぜ注目されるのか
ASMLは半導体メーカーではありませんが、世界の先端チップ製造に不可欠な装置を供給する「製造装置メーカー」です。特に、EUV(Extreme Ultraviolet)リソグラフィー技術においては、世界で唯一の商用供給企業として知られており、その重要性は他に類を見ません。
EUV装置とは?ASMLの装置が支える最先端チップの世界
EUVとは「極端紫外線」を用いた露光技術で、ナノメートル単位の微細な配線パターンをシリコンウエハーに転写する工程に用いられます。従来のArF(アルゴンフッ化物)露光よりもはるかに高精度な加工が可能で、5nm以下のプロセス技術には必須の装置です。
ASMLのEUV装置は、サイズが二階建てバスほどにもなり、1台あたりの価格は最大で約4億ドル(約600億円)にも上ります。この技術を安定的に供給できる企業は現時点でASMLしか存在せず、まさに「半導体産業のボトルネック」とも言える存在です。
Apple・NVIDIA・TSMC…ASMLが支える巨大エコシステム
ASMLの顧客には、Appleのチップを製造するTSMCや、AI向けGPUを展開するNVIDIAが名を連ねています。これらの企業は、最先端のプロセス技術による高性能チップを必要としており、その製造にはASMLのEUV装置が欠かせません。
つまり、スマートフォンから生成AIサーバーまで、現代のデジタル社会を支える多くの製品の根幹には、ASMLの技術が存在しています。日本の読者にとっても、ASMLの動向は決して他人事ではなく、IT製品の価格や供給安定性にも直結する重要なファクターです。
トランプ政権復活と地政学リスク:ASMLが懸念する2026年問題
2025年現在、米国ではトランプ前大統領が再び政権に就いており、対中・対欧の通商政策が再び強硬化しています。その影響を特に懸念しているのが、オランダのASML社です。
CEOが「2026年の成長は約束できない」と発言した背景には、この地政学的な緊張と政策リスクの高まりがあります。
米国からの依存と非米企業の脆弱性:ASMLが抱える構造的リスク
ASMLはオランダに本社を置く欧州企業でありながら、主要顧客には米国企業が多数を占めています。特にNVIDIAやIntel、さらにはAppleのチップを製造するTSMCも含め、EUV装置に依存する半導体大手がASMLの売上を支えています。
しかしASMLは米国内に主要な製造・開発拠点を持っておらず、「米国の雇用創出に直接貢献していない企業」と見なされるリスクを抱えています。この構造的な非対称性が、関税や規制の標的となる可能性を高めているのです。
すでに始まっている関税強化:欧州企業にも迫る保護主義の波
トランプ政権はすでに中国製EV・半導体関連部品への追加関税を再導入し、「米国製造回帰」の旗を再び強く掲げています。こうした流れの中で、ASMLのような非米企業が米市場へのアクセスに制限を受ける可能性は無視できません。
ASMLのCEOが発した慎重なコメントは、こうした国際情勢の変化を踏まえた投資家への警告とも受け取れます。単に業績が鈍化するという話ではなく、政策環境そのものがビジネスリスクになりつつあることが、今回の市場の反応を強く後押ししたと考えられます。
ASMLの成長減速が日本と世界の半導体産業に与える影響
ASMLの成長鈍化懸念は、単に欧州や米国だけの問題ではありません。その製品を活用している各国の半導体戦略にも波及します。特に、日本はTSMC熊本工場やRapidusなど、次世代チップ製造体制の強化を急いでいる最中であり、ASMLの動向はその成否に直結しかねません。
日本の半導体復活戦略とASML依存の現実
日本では現在、TSMCの熊本進出やRapidusによる最先端プロセスの国内生産が話題となっています。いずれのプロジェクトにおいても、EUV露光装置の導入は不可避です。つまり、日本の次世代半導体製造もASML製品に強く依存しているのが実情です。
たとえば、TSMC熊本第2工場ではEUV装置の使用が明言されており、その供給が遅れたり価格が高騰したりすれば、工程計画全体に影響が及ぶ可能性があります。
またRapidusにとっても、ASMLとの関係は研究開発段階から深く絡んでおり、EUVの安定調達が前提となっています。
今後の展開と企業の備え:多様化か、リスクヘッジか
こうした依存関係を踏まえると、日本企業や政府は今後、ASMLへの一極依存をどう管理していくかが重要になります。代替装置の開発は現実的に時間がかかるため、装置調達のタイミングや契約交渉において、より戦略的な判断が求められます。
一方で、ASMLの成長が減速したとしても、それは「需要の冷え込み」ではなく、「供給側の慎重さ」に起因する部分も大きいため、全体としては中長期的な成長基調に変わりはないとの見方もできます。
そのため、短期的な不安に左右されすぎず、長期視点でのリスク管理が重要になるでしょう。







